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漁師(1)

「大丈夫か?」
船酔いで苦しむ姿を見かねたのか漁師に声を掛けられる。
「なんとか…」
「服ゆるめて横になりゃなぁ」
そう言いながら、借りていた胴長靴の肩紐をズラし、腰下まで下げられる。
そのながれのまま、着ていたシャツのボタンを順に開けられた。
逞しい海の男が真剣な顔をしてボタンを外す、普段なら興奮せずにはいられなかったろう。
だが、酔いでそれどころではなかった。
目の前で繰り広げられるその光景、一瞬置かれた状況を忘れそうになる。

すると船長が叫んだ。
「そんなとこいちゃ、余計酔っちまわぁ、こっち来い」
吐きそうだったため船尾にいたが、そう言われ、船の中央部分に連れられる。
「こんぐらいの船じゃ、そんなに変わらんが、あっこよりはマシだろうさぁ」

漁師に肩を借りながら、ズレそうになるズボンを持って中央部に移動する。
汗の匂いと逞しい感触、船酔いがなければ贅沢以外の何物でもない。
連れられた中央部で横になり、横になった。

*****

「ご迷惑をお掛けしました…」
陸に上がってからもしばらく横になり休ませて貰っていたが、何とか回復した礼を言う。
「まぁ、おかもんにはしゃあないさぁ、はよう、海に慣れんとなぁ」
そう言いながら、昼間から既に一杯引っ掛けている船長が笑う。
「すみません…」
少し恐縮しながらも頭を下げ、着替えるべく隣の小屋へと向かった。

すると中では先程の漁師が1人、片付けをしていた様だ。
「先程は、ありがとうございました」
礼を言うと、漁師はニコリと笑った。
「大丈夫なら良かった」
船の上では見られなかった笑顔に癒される。

すると、あの感触を思い出したのか、ムスコがムクりと反応した。
さすがにバレるとマズい、そのまま後ろを向いて服を着替えだした。

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