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後部座席(2)

次の勤務日、今日も男は誰もいない最終バスに乗り込み、いつもと変わらぬ席へ座る。
そして街中を過ぎると、いつもと変わらぬ様子を見せた。

隠し撮りした動画では、終電へと続く最後の区間で一気に絶頂を迎えている。
とすれば、その1つ前で声を掛けようと、いつもより少しアクセルを吹かした。
その甲斐もあって、終点前の停留所に少し早く着きバスを停めると、おもむろに席を立った。
何の迷いも無く後部座席の男の元へと向かう。

そのことに気付いた男は、急に焦った様子で動きを取ると、何事も無いかの様に振る舞う。
しかし顔は蒸気ばっており、焦りの表情が見て取れる。

「お客様」
「は…はい…」
視線は変わらずこちらを見つめているが、明らかな動揺が見て取れる。
「他のお客様がいらっしゃいはしませんが、乗車マナーとしてはお控えいただけますか」
そう言いながらも、こちらも興奮が抑えられないのが本音だ。
「え…あ…いや…何も…」
必死に誤魔化そうと言葉を出そうとするが、焦って出ないらしい。
「申し訳ありません、先日不振に思い、一部始終を動画に収めさせていただきました…」
動画という言葉に男の顔が引きつる。
「私個人が勝手に行ったことですし、私もバレれば処分を受けねばなりませんので…」
説明を続けるも、男の耳には届いていないかもしれない。
「公表するつもりはありませんし、二人だけの秘密として、今後はおやめいただけませんか」
完全に戸惑いを見せる男に、疑問をぶつけてみた。
「スリルを味わいたかったのですか、それとも露出的なそういう…」
男は完全に固まってしまっていたが、事態を悟ったのか言葉を捻りだした。
「だ…誰にも言わないでください…もうしません…」
か細い声で切に願う姿が可哀そうになる。
「解りました、一先ず終点へと向かいますので、続きはそちらで」
そう言うと、運転席へと戻り、終点へと向かった。

一度だけ男に目をやったが、俯いたまま微動だにしない。
完全に状況を悟り、死刑台へ向かう心境なのだろう。

やがて終点へと到着するとエンジンを切り、万が一を考え消灯し、ドアを開かない様にする。
そして、男の待つ後部座席へと暗い中、歩いて行った。

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